父から後を継いだ二代目経営者のM&Aの話~第四章「価値算定」~
第一章では、父からの引き継ぎのない事業承継
第二章では、二代目としての薬局経営の苦悩とM&Aとの出会い
第三章では、将来を見据えた経営の選択肢について
書かせて頂きました。
実際に、M&Aという選択肢を選び実現に向けて動き出したわけですが、
まず初めのステップとして、M&A仲介業者に価値算定の依頼をして、自社(薬局)の価値(営業権や株式評価)を知ることから始まりました。
価値算定とは
M&A仲介業者が、依頼主から受領した①決算書(直近3期分)と②レセコン資料(直近3期分)などを元に、事業評価額や株式評価額などの価値算定をしてくれます。
弊社を含めて、多くのM&A仲介業者が実施しておりますが、
業者によって無料であったり有料であったりマチマチです。
無料だからといって価値算定結果に影響を及ぼすことはありません。
価値算定の大まかな流れ
①資料提出
②価値算定に基づくインタビュー
③価値算定報告
※長くても約1か月程度で価値算定結果を把握できます。
価値算定では、単純に、自社(薬局)の価値が把握できます。
つまり、自社(薬局)を譲渡した場合にどれほどの譲渡対価を取得出来るかがある程度把握できます。
但し、M&A仲介業者による価値算定はある程度の幅を想定した譲渡対価のシミュレーションになりますので、
実際の譲受企業と話を進めるにあたっては、その想定した譲渡対価よりもある程度増減することが前提となります。
法人契約にて各種保険などに加入し、解約返戻金などで役員退職金を積み立てている経営者の方々も多くいらっしゃると思いますが、創業者(経営者)利益を獲得する唯一の方法はM&Aによる譲渡対価の取得に他なりません。
また、この価値は、薬局業界においては調剤報酬改定の影響を大きく受けますので、改定前後で価値算定結果が変わってくることも大きな判断材料になります。価値の変動の他にも、改定前後では譲受企業の買収意向も変わってきますので、この激動の薬局業界においてのM&Aの理想的なタイミングというのは非常に難しい状況です。
私は、自社(薬局)の価値算定結果を受け、「この会社(薬局)を譲り受けてくれる企業はどれほどいるのだろう?」という興味と疑問が芽生えました。そして早速M&A仲介業者に「買手打診」の依頼をしました。
買手打診とは
M&A仲介業者と秘密保持契約書を締結した譲受候補企業へ、「ノンネームシート」という譲渡検討企業の概要を会社名(薬局名)が特定されない程度の情報をまとめた資料をもって打診をして頂きます。
その「ノンネームシート」の情報をもって、興味を示された譲受候補企業に対して、「企業概要書」という譲渡検討企業の詳細な情報をまとめた資料を開示頂きます。この「企業概要書」は会社名(薬局名)が特定出来る詳細な情報が掲載されておりますので、譲渡検討企業側の承諾を受けて開示をして頂く事になります。
どれほど、譲受候補企業が手を挙げて頂けるか…こればかりは、タイミングです。
1週間で見つかる場合もあれば、数か月見つからない場合もあります。譲渡検討企業の希望条件についても、譲受候補企業によって様々な提案の提示があることもあります。こればかりは動いてみないと分からないのが現状です。
幸い、私の場合、2週間ほどで数社の譲受候補企業が手を挙げて頂きました。
実際に、譲受候補企業が現れたことで、私のM&Aも机上の空論ではなく、現実(リアル)であることを実感しました。
私も当日の気持ちは素直に「ありがたい」でした。
私はTOP面談を希望しました。
第四章の振り返り
この第四章を振り返ると、
「価値算定」は、非上場企業が自社の価値を把握する上で、非常に重要な情報だと改めて感じました。M&A、親族などへの事業承継、友人知人への譲渡をする上で参考になる情報ですが、それらに限りません。「この価値を上げるには?」などの経営戦略の立案の材料としても有効活用できます。
但し、価値算定のタイミングというものに正解はありません。調剤報酬改定による経営への影響が及ぶタイミング、自身の勇退や世代交代のタイミングなど、様々です。
譲渡の意向がまだ固まっていなくても自社の価値を把握する貴重な機会として捉えて頂ければ、私は、単純に価値算定のタイミングは「いま」だと信じています。
第五章に続く