父から後を継いだ二代目経営者のM&Aの話
プロローグ
私は調剤薬局2代目の経営者として、創業者である父から事業承継をし、薬剤師業務と薬局経営に従事しておりました。
数年の経営の末、M&Aという大きな決断をし、売主として会社を譲渡しました。
当コラムには私のこの実体験に基づく記録として、読んで頂いた方に少しでも共感して頂ければ幸いです。
第1章「事業承継」
私の父は、調剤薬局の創業者として非薬剤師経営者でありました。
私は父から「後を継いで欲しい」と言われたことは未だかつてありませんでした。
後にその理由が分かった様にも感じています。
長男である私は、薬剤師になる道を選択しました。
勝手に後を継ぐつもりでいました。
父も私が薬学部に入り、薬剤師の道を選んだ事を喜んでくれました。
無事に薬剤師になり、薬剤師として調剤薬局薬剤師や病院薬剤師の道を選ばず、
そして父の調剤薬局にも身を置かず、父が以前製薬業界にいた事もあり、
社会勉強のため、製薬企業に就職しました。
その後、10年近く製薬企業に勤めました。
父も還暦を迎え、将来の話をする様になりました。
父はその時も「継いで欲しい」とは一言も言いませんでした。
私も製薬企業での仕事に楽しさとやりがいを感じ今の状況に満足していました。
そんな中、父の末期がんが発覚しました。膵癌StageⅣでした。
私は製薬企業で膵癌に適応を持つ抗がん剤の営業をしていたのですが、
まさか一番身近な人が膵癌になるとは当時は考えもしませんでした。
そして、抗がん剤の営業をしているにもかかわらず、
いざという時に力になることができないということがとても悔やまれます。
主治医とのインフォームドコンセントに同席し、
父や母は現状を理解していませんでしたが、
私は一定の知識がありましたので全てを理解出来ました。
余命半年、長くて一年。
その時、「すぐに退職し、父の治療をサポートしながら、後を継ごう」と決心しました。
父にその決心を伝えると、
「継がなくて良い。今の会社を辞めちゃいけない」
と断られました。
まだ父自身が自分の状況を理解していないからなのか、
私は複雑な思いでしたが、翌日退職届を会社に提出しました。
その一週間後、父に脳出血が起こり、
言語障害と半身不随になり、話すことも歩くことも出来なくなりました。
その1か月後、父は他界しました。
私は、父から後を継ぐ了承が無いまま、
父から引き継ぎの無いまま、事業承継をしました。
父のがんが発覚してから僅か4か月の出来事でした。
父が人生をかけて積み上げてきた調剤薬局を、
長男である私が後を継ぐ事は、ごく自然な事です。
私も決心の上であり、薬剤師の道を選んだ時点から決まっていた事ことだったかもしれません。
ただ、こんな形の事業承継をするとは微塵も思っていませんでした。
一緒に働きながら承継したかった。父から仕事の話を聞きたかった。
父を恨みましたし、自分も恨みました。
もっと計画に話しておくべきだった。
「いずれは」「いつかは」など先送りにしてしまうことで、理想的な事業承継の機会を失ってしまう。
今思えばその後悔が残るばかりでした。
事業承継を含めてM&Aという選択肢は、
すぐに決断出来る場合もありますが、そうでない場合もあります。
この第1章を振り返ると、
長期的に考えながら選択肢の一つとして常に持っていること、
そして準備しておくこと、その重要性が改めて分かった様にも感じます。
第二章に続く
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