父から後を継いだ二代目経営者のM&Aの話
第五章「TOP面談」
第一章では、父からの引き継ぎのない事業承継
第二章では、二代目としての薬局経営の苦悩とM&Aとの出会い
第三章では、経営の選択肢について
第四章では、価値算定について書かせて頂きました。
M&A仲介会社様に、正式な価値算定をいただいてから買手打診をして頂きました。
実際にお相手が現れたことでM&Aという現実味を実感した私は、
タイミングや巡り合わせを感じるようになり、早速お相手と面談することにしました。
TOP面談
TOP面談は、譲渡先と譲受先の対面による情報交換の場です。
面談内容としては下記が一例となります。
1)譲渡側 企業紹介
2)譲渡側 今回譲渡(予定)を決めるに至った経緯
3)譲受側 企業紹介
4)譲受側 今回譲受(予定)を決めるに至った経緯
5)双 方 確認事項・スケジュール確認
6)双 方 その他確認質問事項
私は、当社の企業紹介については、お恥ずかしながら難しかったです。
父から承継した二代目経営者といえど、承継してからたった数年間のみ。
父が創業してからの約20年間以上の企業としての歴史はほとんど知りませんでした。
事前に、これまで承継後に母や父の友人に色んな話を聞く機会がありましたので、
それを自分なりに当社の歴史を想いをまとめた上で、お相手に伝えました。
・創業するきっかけ
・地域とのつながり
・苦労経験や成功経験
・薬局を支えている職員
・私が承継するに至った経緯
諸々
譲渡するのであれば、「”それ”を含めて全て受け止めて欲しい」
この想いが亡き父への尊敬と責任を全うすることだと思ったのです。
伝えきった私は、その後に続いて、譲渡(予定)を決めるに至った経緯を伝えました。
その経緯はこれまでのコラムをご参照下さい。
全て伝えきった私は、少し感情的になっていました。
そこにお相手から
「良く頑張りましたね。お父様も社長(わたし)も。」
私の体から力が抜け、目頭が熱くなりました。
お相手の背中に父がいるかの様に、まるで父から言われた言葉の様に、
この一言がストンと私の体に溶けていきました。
この一言は今でも忘れません。
お相手からすれば普通の一言かもしれませんが、私にとってはとてもとてもありがたい言葉でした。
父が他界し、引き継ぎの無い承継をし、ただのサラリーマンだった私は経営者となり、多くの責任が肩に圧し掛かりました。
分からないことだらけで人間不信になり、分かるように精一杯努力は続けてこれた。
職員や関係者の皆様も応援し助けて頂いた。感謝の気持ちは勿論ありました。
だけど、どこか孤独だった。一人だった。
全ての受け入れて頂いた上での、この一言で私は救われました。
その後は、譲受先からの企業紹介と経緯のお話しでした。
共感できる部分が多く、当社の店舗の近隣に複数の店舗があり、
サポート面が手厚くなること、そして当社の職員が馴染める企業であることが分かりました。
確認事項については、事前に仲介業者より聞いていた内容の読み合わせ程度でした。
実際の詳細な部分は今後進めていく上でのDD(デューデリジェンス)の際に確認されます。
TOP面談は滞りなく終えました。
私はまたここでも「タイミング」を感じました。巡り合わせを実感したのです。
最終的に譲渡の決断をするにしろしないにしろ、このタイミングでM&AのフローのTOP面談まで進めることはとても価値があります。
・良いお相手が現れなかったら、譲渡しなければ良い
・良いお相手が現れたら、譲渡をすることを真剣に考えれば良い
私は、後者でした。私はこの忘れない言葉をくれた。背中に父を感じたお相手に譲渡したい気持ちが高まったのです。
第六章に続く