父から後を継いだ二代目経営者のM&Aの話
第八章「クロージング」
本章で、私が当事者(売主)として経験をした「二代目経営者のM&Aの話」は終了となります。
第一章では、父からの引き継ぎのない事業承継
第二章では、二代目としての薬局経営の苦悩とM&Aとの出会い
第三章では、経営の選択肢
第四章では、価値算定
第五章では、TOP面談
第六章では、デューデリジェンス
第七章では、関係者告知
について書かせて頂きました。
次は、M&Aジャーニーの終着点「クロージング」です。
M&Aにおけるクロージングとは、最終契約に基づき、M&A取引が実行され、
譲渡側への譲渡代金の支払い(決済)と、譲受側への経営権移転が完了することです。
具体的には、
譲渡側は、譲受側に対して「重要物品の引渡し」を行います。
株式譲渡における重要物品の一例として下記を重要物品が該当します。
(写しや原本証明などの詳細は省略)
①株主名簿
②株式譲渡の譲渡承認に関わる株主総会議事録
③譲渡承認通知書
④株主名義書換請求書
⑤法人実印
⑥法人実印の印鑑登録証明書
⑦法人印鑑カード
⑧法人口座の通帳
⑨法人口座の届出印
⑩譲渡側株主の印鑑登録証明書
これらの重要物品の受領を受けて、譲受側は、譲渡側に対して「譲渡代金の支払い」を行います。
譲渡側は入金を確認し、お世話になったM&A仲介業者への成功報酬を支払いを行います。
そして、特に株式譲渡であれば、譲渡側法人の株主であり代表取締役であるケースが多く、譲渡のタイミングで自身の勇退も行います。その場合は、これまでの歴史を称賛し譲受側へバトンを託すべく「クロージングセレモニー」が行われることがあります。
「クロージングセレモニー」は、前述の重要物品の引き渡しの他に、譲渡側と譲受側の双方よりご挨拶として一言お話しをして頂きます。
私も話しました。
まずは、M&A仲介業者の担当者への感謝です。多くの経営者がいる中で、
譲渡経験のある経営者は僅かであり、ほとんどの経営者はM&Aによる譲渡は初めての経験となります。
そのため、M&A仲介業者の存在は不可欠でした。
このM&Aフローを進めていく中で、担当者の方も私と誠意をもって向き合って頂きました。
何より素敵なお相手と巡り合わせて頂けたことは、私個人では到底叶わないことであり、
M&A仲介業者の存在価値なのだと感じました。
M&A仲介業者への手数料(成功報酬)が高いだとか思われる方もいるかもしれません。他に安価な手数料の業者もいるかもしれません。
ですが、私はそれ相応の価値を感じました。何も不満はありません。満足でした。感謝しかありません。
そして、譲受側の社長への感謝です。
TOP面談の印象で決断をしたお相手ですが、その後も誠実に誠意をもって対応頂きました。
何より私の気持ちを全て受け止めて頂けた方でした。
話をしながら感極まった私ですが、花束を抱えながら譲渡側の社長との固い握手には、父も手を添えてくれた気がします。
「クロージング」はこれにて終了しました。
それと同時に「私の調剤薬局のM&Aジャーニー」も終わりを迎えました。
そして、この貴重な経験を活かしたいという気持ちが、高まり私が目指す次のキャリアが決まったのでした。
最後に…
先代の父が人生をかけて立ち上げた会社であり薬局を、
父本人の急死という誰も望まないかたちで、息子である私が二代目として承継しました。
その二代目である息子が、父から受け継いだ会社という財産・歴史を第三者に託したことをこのコラムを読んで頂いた方は、どう思われたのでしょうか。
きっと「勿体ない」「続ければ良いのに」と思われた方もいらっしゃるのだろうも思います。
一方で「良い決断をした」「良かった」と思って頂ける方もいらっしゃると思います。
経営者の数だけ、歴史があり、想いがあります。私の経験談コラムはその一つに過ぎません。
ですが、このコラムが、誰かの行動のきっかけになれれば幸いです。
今すぐでなくとも、近い将来、遠い将来の経営判断の一つとして、
M&Aという選択肢を取捨選択する意味で、M&A仲介業者と接点を持っておくことは決して悪いことではありません。
私や当社、もしくはその他のM&A仲介業者が全国の薬局経営者の皆様の一助になれること、
そして、関わる全ての皆様のご発展を心よりお祈り申し上げます。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。