トリプル改定といわれる診療報酬と介護報酬、障害福祉サービス等報酬の同時改定に向けた議論もいよいよ大詰め。1月26日には点数なしの個別改定項目、いわゆる短冊が公表されました。点数の公表が待たれるところですが、今回は調剤報酬改定の全体観をつかむことを目的として、「医療経済実態調査」から調剤業界の今を読み解きたいと思います。
医療経済実態調査とは?
医療経済実態調査の目的は、病院や診療所・保険薬局における医業経営等の実態を明らかにし、社会保険診療報酬に関する基礎資料を整備することです。調査方法には「層化抽出法」を用い、母集団の特性をあらかじめ考慮して、いくつかの部分集団(層・グループ)に分けておき、各層の中から必要な数の調査対象を無作為に抽出する方法を取ります。調査は2年に1回実施され、最新版は2023年11月27日に公表されています。(参考:第24回医療経済実態調査(医療機関等調査) )
どのような影響があるのか?
中央社会保険医療協議会(以下、中医協)は、医療経済実態調査の情報を元に薬局経営の効率性や薬局機能体制を資料にまとめ、調剤基本料や加算体制が有効に機能しているか、前回までの改定における課題がないかを整理し、次の報酬改定の論点出しを行っています。調査は複数かつ多角的に行われます。具体的には、収益・費用・損益を複数の枠組み(規模別、立地別、基本料別、後発割合別等)で整理したり、規模別の平均給与を分類したりして現在の薬局経営の実態を把握することを主眼としています。
実態調査からみられる規模別の損益状況
一例として、規模別の薬局1施設あたりの損益をまとめてみました。
<規模別の薬局1施設あたりの収益状況>
調査対象の薬局(n=1,115施設)の営業利益率は5.4%(第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告 P.231)となりますが、規模別で利益率にばらつきがあることが分かります。特に赤で囲った6~19店舗、20~49店舗、50~99店舗規模の法人が利益率をけん引しており、このあたりの評価が論点となりそうです。たとえば、中規模薬局の基本料1算定基準や地域支援体制加算の算定ハードルに関して議論が進められる、などです。
また、300店舗以上の法人の利益率は5.8%と平均並みであるものの、黄色くハイライトした部分の「損益額」が26,609千円と突出して高いことが分かります。ここでは、たとえば、特別調剤基本料(いわゆる敷地内薬局)と関連づけて調剤報酬に反映されるという予測が立てられます。実際に、中医協が公表した資料を確認してみると「敷地内薬局の開設に係る病院の公募内容を踏まえれば利益供与に当たるのではないかといった多くの問題点が指摘され、国が必要な対応をすべきとの意見が多かった。」(2023年11月29日中医協総会「調剤について(その3)」P.24)と記されています。
まとめ
今回は「医療経済実態調査の読み解きと、調剤報酬改定に与える影響」というテーマで、規模別の損益状況を取り上げ、一部予測も含めてまとめてみました。
一般的に日本でいう広義の社会保障制度とは、「年金」「医療」「福祉」から構成されています。その内訳は、「労災保険」「雇用保険」「国民年金」「厚生年金」「健康保険(国民健康保険)」です。
診療報酬が社会保障制度の一部である以上、調剤報酬改定を近視眼的にだけ理解することは危険です。中長期的な視点で業界の流れを掴むことを忘れないようにしてください。
<本コラムを読み解くポイント >
・医療経済実態調査とはどのようなものか
・中医協は何を根拠に報酬改定の論点を整理しているのか
・その論点および解決策は調剤報酬のどこと紐づいていて議論されているか
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