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  • 2025.02.13

薬局カスタマーハラスメントの実態と対応策

薬局カスタマーハラスメントの実態と対応策

近年、企業や従業員が直面する課題の一つとしてカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が挙げられます。特に医療・福祉業界では、患者などの対応時に著しい迷惑行為や暴言、脅迫が増加しており、深刻な問題となっています。本コラムでは、カスハラの実態を整理し、企業が取るべき対策について考察します。

カスタマーハラスメントの現状

厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査(2023年度)」によると、薬局業界を含む「医療・福祉業界」は、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けた経験がある業種の上位5位に入っています(図1参照)。この結果は、同業界におけるカスハラの深刻さを示しています。

(出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査 結果概要」

【図1】 医療・福祉業界におけるカスタマーハラスメントの発生率(業種別)

さらに、厚生労働省の「カスタマーハラスメント事例集」によれば、薬局や医療機関などの現場では、以下のような行為が報告されています。

・薬局の待ち時間や服薬指導時に関する事例
調剤薬局にて顧客が順番待ち中に、先に待っている他の顧客がいるにも関わらず、「急げ」「早くしろ」と圧力をかけた。また、薬剤師が薬の説明を始めると、薬剤師に対して暴言を吐いた。
・薬の処方に関する事例
薬を過剰に内服することを希望する患者に対し、薬剤師と従業員ができない理由を伝えたところ、「殺すぞ」と発言した。
・病院での面会に関する事例
コロナ禍において、入院患者の見舞いに訪れた人物に対して、面会禁止の旨を説明したが、「それはわかっているんだ、ばか!」と暴言を吐かれた。
・処置やケアに関する事例
利用者やその家族が看護師に「看護の内容が適切でない」と批判したり、処置やケアに対して「下手くそ」と発言したり、「ばかやろう!」「帰れ!」等大声で怒鳴りつけた。また、「お前じゃダメだ、いつもの人にして」と発言した。

(出典:厚生労働省「カスタマーハラスメント事例集」

このようなカスハラの増加は、従業員の精神的負担を高め、業務遂行に支障をきたす原因となっています。

国や行政によるカスハラ対応策

カスハラによる企業や労働者への負担が問題視される中、国や行政が対策を強化しています。

厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を策定し、企業が適切に対処できるよう指針を示しています。また、「勤務環境改善マネジメントシステム」により、医療従事者の職場環境の改善も推進されています。
日本薬剤師会は「クレーム対応費用保険」の取り扱いを開始し、薬局が受けた理不尽なクレームの対応を支援。さらに、東京都や三重県ではカスハラを防止する条例を制定し、事業者に対策を求める動きもあります。加えて、中小企業庁のガイドラインや地方自治体の独自施策も、業界全体の支援につながっています。

<参考> 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」  
<参考> 厚生労働省「医療従事者の勤務環境の改善について」

企業が取るべきカスハラ対応策

では、企業として取るべき対応策にはどのようなものがあるのでしょうか。5つのポイントに整理しました。

  1. 対応マニュアルの作成・運用

    薬局や医療の現場ではカスハラが日常的に発生しやすいため、各店舗・施設ごとに具体的な対応マニュアルを作成し、職員が適切に対処できるよう備えておくことが望ましいでしょう。

  2. カスハラ対策の基本方針の策定

    大手薬局や医療機関では、カスハラに対する基本方針を策定し、ウェブサイトなどで公開する動きが広がっています。方針を明確にすることで、従業員の安心感を高めるとともに、企業の姿勢を社会に示すことができます。

  3. 従業員の安全確保と相談窓口の設置

    カスハラ被害を受けた従業員が適切な支援を受けられるよう、相談窓口の設置を推進することが重要です。また、弁護士や社会保険労務士と連携し、法的助言を得られる体制を整えることも必要でしょう。特に、医療・福祉の現場では、従業員が単独で対応することが多いため、サポート体制の構築が従業員の安心や働きやすさにも直結します。

  4. 外部機関の活用

    厚生労働省や自治体が提供する支援策を活用し、カスハラ防止のための情報提供や研修を実施することが有効です。特に、事例を基にした対策研修を行うことで、従業員の対応力を向上させることができます。薬局や医療・介護施設では、多職種連携によるサービス提供も頻繁に行われるため、企業内に留まらない情報共有も重要です。

    <参考> 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」 
    <参考> 厚生労働省 「カスタマーハラスメント事例集」

  5. 法的措置の活用

    悪質なカスハラに対しては、警察への通報や弁護士を通じた対応を検討することも選択肢の一つです。毅然とした対応が、従業員が安心して業務に従事できる環境づくりにつながります。

まとめ

カスタマーハラスメントは、企業の健全な業務遂行を阻害する深刻な問題です。特に医療・福祉業界では、患者対応が求められる場面が多いため、適切な対策が急務となっています。

企業は、カスハラ対策の基本方針を策定し、従業員の安全確保や外部機関の活用を進めることで、安心して働ける職場環境を整える必要があります。また、業界特有の課題に応じたマニュアルの策定や多職種連携の強化も欠かせません。

今後も、社会全体でカスハラの問題に対処し、持続可能な労働環境の実現を目指していくことが求められます。

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